パンダ・アップデート日本導入は未定 〜 Google副社長、アミット・シンガルがセマンティック検索、Search Plus Your World、ペンギン・アップデートについて語る at #SMX London 2012

[対象: 全員]

SMX London 2012のレポート第一弾は、GoogleのAmit Singhal(アミット・シンガル)氏が登場したキーノートスピーチです。

Google Amit Sihgal

シンガル氏はインド出身でAT&Tを経て2000年にGoogleに加わりました。

現在は米GoogleのSenior Vice President(上級副社長)で、Google Fellow(グーグル・フェロー)という称号を与えられています。

Google検索全体を率いているトップに当たるのがシンガル氏になります。

エンジニアとして超一流で、Googleの創業者の1人、Sergey Brin(セルゲイ・ブリン)が書いたGoogle検索のコードを、すばらしいがもっとよくなると言ってすべて書き換えたという逸話を持っているほどです。

そんなシンガル氏がGoogleが進む方向について語りました。
注目したいハイライトを紹介します。

Amit Sihgal, Danny Sallivan and Chris Sherman at SMX London 2012 Keynote Speech
※右がアミット・シンガル氏、真ん中がSearch Engine LandのDanny Sallivan(ダニー・サリバン)氏、左が同じくSearch Engine LandのChris Sherman(クリス・シャーマン)氏

 

セマンティック

Semantic(セマンティック)」という用語こそ使いませんでしたが、「物事の意味」を理解できるな検索エンジンを追求している夢についての話になります。

− 検索エンジンは「文字列」を認識しているだけであって、その「意味」を理解しているわけでない
− 「Apple」(アップル社)と「apple」(リンゴ)が何なのか、その存在を理解してはいない
− 「Mount Everest」(エベレスト山) が山だと理解しているわけではなく、2つの単語から成る文字としての言葉を認識しているだけ。標高や場所などを持っていることは分からない。

− シンガル氏の夢は検索エンジンが物事の意味を理解できるようにすること
− アップル社とリンゴの違いを区別できたり「世界中でもっとも高い山のトップ10は?」のような質問に答えられるようにしたりしたい。

− やるべきことまだたくさんあるが、Googleはこの夢に向かって進んでいる
− ユーザーの意図を区別できるようにコンピュータに教え込み、少しずつそれが可能になってきている

Search Plus Your World / パーソナライズ検索

パーソナライズ検索とそれをさらに発展させたSearch Plus Your Worldについて語りました。

− SPYWは、まだ“赤ちゃん”としてのファーストステップにすぎない

− ユニバーサル検索は、ビデオや画像などすべてを一カ所で見つけられるようにした
− ユニバーサル検索はSPYWなしでは不完全

− データは、ユーザーがSPYWを気に入っていることを示している

− 1クリックでパーソナライズ検索をオフにすることができる

− パーソナライズを今後も進めていく

− 要点はGoogle+との統合ではなくあらゆるものを安全に検索する基盤を築くこと

− 公開されているものとパーソナルなものの両方を探せるようにする

− ヨーロッパでのSPYW導入はフィードバックをもとにして決める。まず改良が先。

− パーソナライズ検索によって、セレンディピティ(serendipity: 探しているものとは別の素晴らしい物事を偶然に発見すること)が失われることはない
− パーソナライズされたものとパーソナライズされていないもののバランスをとりたい

− (「パーソナライズ検索のCTRはどのくらいか?」という問いに対して)パーソナライズ結果のほうをクリックしているし検索結果のクリック率も上がっている

− SPWYに課題が残っていることは事実

(BingはFacebookやTwitterの統合を進めているがGoogleはどうなのか?という問いに対して)
ツイッターとの契約は終わっている
− フェイスブックの情報は“ウォール”の向こうに隠れている
− Twitterはコンテンツの発生が多すぎてクロールしきれない。できたとしてもTwitterのサーバーをダウンさせてしまうだろう。
− 統合は難しい

検索の変更・改良が導入されるまでのプロセス

Google検索は年間20,000以上のテストを行い、2011年には検索品質を向上させるために500以上の変更・改良を加えました。
これらの変更や改良がどんなプロセスでテストされ導入されるのかを説明しました。

− エンジニアが検索品質を向上させるための新しいアイディアや改良を思いつく
− サンプルのデータでテストしてみる

− 結果が良いようなら、人間の評価者によるA/Bテストを行う
− A/Bテストでは、現在の検索結果と改良した検索結果を並べてどちらが良いかを判断してもらう
− 評価者には、どちらが通常の検索結果でどちらが新しい検索結果かは教えられていない

− どのくらいの割合で良くなったか、悪くなったかを評価する

− 以前よりも悪い結果がなくなるまでここまでのA/Bテストを繰り返す

− 全体的に問題点がなくなり改善が認められたのち一般ユーザーの実際の検索で新しい検索結果を表示するテストが行われる
− ごく限られた少数のユーザーが被験者に割り当てられる ※いわゆるバケットテスト

− 良くなったかどうかはユーザーのクリックで判断する
− 検索結果が良くなると、ユーザーはより上位の結果をクリックするだけではなくより多く検索する傾向にある

− テストの結果が独立したアナリストによってまとめられる

− 毎週火曜日のサーチ クオリティ ミーティングでテスト結果のデータとともに導入すべきかどうかディスカッションが行われる

− サーチクオリティミーティングで承認されると本番の検索に導入される

− ユーザーによって検索結果が異なるためパーソナライズ検索はテストによる検証が難しい
− 関連性が上がったかではなく、クリック動向で判断するしかない
− さまざまなスクリーンサイズによってさらに複雑になっている
− スクリーンサイズが小さくなってきているのでデザインがより重要になってきている

ペンギン・アップデート

導入されたばかりのペンギン・アップデートについてダニー・サリバン氏からの質問に回答しました。

− ペンギン・アップデートによってハイクオリティなサイトがより多く検索結果に出てくるようになった
− (リンクの問題かという問いに対しては煙に巻いたうえで)ソーシャルシグナルであろうが何であろうが利用できるものは何でも利用する
− ペンギンによって関連性が増した
− “Relivancy is a king.”(関連性が王様)※“Content is a king.”(コンテンツが王様)にかけている

パンダ・アップデートの日本導入ほか

参加者からの質問などその他についてです。

− よりローカライズされた結果を出すようになっている ※2012年2月に導入した「ローカル検索結果におけるランキング要因の改善」(コードネーム:Venice、通称ヴェニス・アップデート)についての質問への回答

− Googleの無料検索(オーガニック検索)は収益とはまったく無関係。関連性のみが問題になる。

− (「Googleにはすべてを知っている人間はいるのか」という問いに対して)検索や広告といった個々の存在について把握している人間はいるがすべてを知っている者はいない

そして、パンダ・アップデートの日本導入についてシンガル氏本人からコメントを引き出すことに成功しました。

さすがの僕もシンガル氏に突撃する勇気はありません。
そこで事前にダニーに、雑談しているときでいいから日本のパンダはどうなっているのか聞いてほしいと頼んでおきました。
するとキーノートスピーチ中に、「日本にいるケンイチが聞きたがっているんだけど」ということで質問してくれたのでした。
なんとまぁ!

ダニー・サリバンとアミット・シンガル

しかし回答は期待したものではなく、「良いものは導入していきたい」ということで具体的な時期どころか導入の予定があるかどうかすらはっきりしないあやふやなものでした。

あとでダニーのところにお礼を言いに行ったら、“Read between the line.”(行間を読め)と言われ、「近いうちのすぐのパンダ・アップデートの導入はないような言い方だった」とのことでした。

パンダがいつ来るかは未定ととらえてよさそうです。

シンガル氏によるキーノートスピーチのハイライトは以上になります。

具体的な話というよりもむしろGoogleが目指すビジョンを抽象的に語っていた印象です。
SPWYに対して批判があることやペンギン・アップデートはリンクを見ているのかのような細かなトピックにふられると、巧みにかわして論争を引き起こしそうな方向には絶対に向かいませんでした。
“超”スマートな証拠ですね。

それでもGoogleが描いている検索をGoogleトップから直接聞くことができたのは貴重な経験になりました。

キーノートスピーチの翌日にセマンティック検索への本格的な始動ともいうべき「Knowledge Graph」の導入が発表されたのもタイミングがどんぴしゃりですね。

ただ、パンダ・アップデートにしてもSearch Plus Your WorldにしてもKnowledge Graphにしても日本にはいつくるかがまったく不透明で日米のギャップが激しいのがもどかしく感じられます。

ペンギンを相手にできるだけでもよしとすべきか。